
2024年に公開された劇場版『忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』(以下:軍師)の原作小説が、阪口和久氏による新エピソードを加えた“完全版”として、2025年7月22日に発売 されます。映画本編では描かれなかった土井半助=天鬼の過去が初めて明かされるとあって、ファンから注目が集まっています。ここでは映画、そして原作小説の魅力を解説します。
『忍たま乱太郎』(以下:忍たま)は、1993年にTVアニメがスタートし、今年で放送33年目を迎える長寿シリーズ。2024年12月に公開された『軍師』は、13年ぶりの劇場版作品として大ヒットを記録。興行収入は30億円を超え、「大人も楽しめる忍たま映画」として話題になりました。
映画『軍師』3つの見どころとは?
スクリーンだからこそ味わえる迫力満点のアクションや、キャラクターたちの感情表現。ここでは、劇場版で印象に残ったシーンや見どころを紹介していきます。
【見どころ①:天鬼 VS 6年生の対決】
ドクタケ忍者隊の軍師・天鬼と、忍術学園の六年生が激突する戦闘シーンは、本作最大の見せ場のひとつです。
夕方放送のTVシリーズでは見られない、緊迫感あふれるアクションが展開され、ときには流血をともなう描写も。これまでの平和な日常とは一線を画す、スリル満点のバトルに仕上がっています。
6人の六年生は、それぞれの得意武器を駆使しながら天鬼に立ち向かいます。前衛・後衛に分かれた戦術からも、これまで培ってきた信頼関係が感じられました。
劇場版の公開直前に放送された第32シリーズ第64話『若い人の段』では、いままで明かされてこなかった土井先生と六年生の過去が描かれています。新任教師として赴任した土井先生が、初めて受け持つことになったのが当時一年生だった彼らです。このエピソードは、原作者・尼子騒兵衛先生がプロットを手がけたことでも話題になりました。
こうした背景を知ったうえで映画を観ると、「土井先生のために」と奔走する六年生の姿が、より現実味を帯びてきます。
【見どころ②:きり丸&土井先生の関係性】
映画のもうひとつの軸となるのが、土井先生とその生徒・きり丸の関係性です。
土井先生は、幼いころに一族郎党を失っており、天涯孤独の身として育ちました。そして、乱太郎の同級生である摂津のきり丸もまた、戦により家族を失った戦災孤児です。帰る家のないきり丸は、忍術学園の休暇中、土井先生の住む長屋でお世話になっています。
劇中では、土井先生捜索中の六年生の会話を、きり丸が盗み聞きしてしまう場面がありました。先生は、すでに命を落としているかもしれない。そんな最悪の想定に、きり丸はショックを受けます。共通の過去を持つ2人は、先生と生徒という関係を超えて、深い絆で結ばれていました。
TVアニメ第19シリーズ90話『土井先生ときり丸の段』では、きり丸が「どうして自分に親切にしてくれるのか」と土井先生に問いかけます。その疑問に答える土井先生の表情や声色に注目です。
また、映画のなかには、幼少期のきり丸に関する描写が差し込まれていました。セリフのないごく短いカットですが、この映画で筆者が最も好きなシーンです。まだ観ていない方はぜひ、チェックしてみてください。
見どころ③:「1年は組」の活躍
映画では、乱太郎、きり丸、しんべヱを中心とした1年は組メンバーの活躍が描かれています。これは原作小説とは大きく異なる点です。
物語の中盤、一年は組のなかで唯一きり丸だけが、天鬼の正体が土井先生だと知ってしまいます。ひとり元気を失っていくきり丸に、違和感をおぼえたは組の仲間たち。きり丸を諭し、みんなで土井先生を救いにいこうと行動を起こします。
印象的なのは、彼らが“命令されたから”ではなく、自らの意志で動いたという点。また、小説では出番のなかった1年は組の生徒たちも、もれなく登場しています。
では、小説版にしかない見どころとは?
ここからは、小説版にのみ描かれたエピソードをご紹介します。劇場版では触れられなかった物語の背景や設定が深く描かれ、忍たまの世界をより立体的に感じられる内容となっています。
見どころ①:忍術学園が“中立”である理由
忍たまの世界は、戦国時代を舞台にしながらも、作品全体の雰囲気はどこかおだやかで、笑いが絶えません。
しかし、その裏にあるのは、複数の勢力が領地を奪い合っている過酷な現実です。
2011年公開の『劇場版アニメ 忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!の段』では、園田村という惣村に協力した忍術学園が、タソガレドキ軍からの攻撃に抗戦しています。村内には砲弾が飛び交い、生徒たちが危険にさらされる場面もありました。彼らが暮らす世界が、決して安全ではないことを思い起こさせます。
それでも忍術学園のなかだけは、なぜか周辺領主の支配を受けず、独立を保ったまま存在している。その謎の答えが、小説版のなかで静かに提示されていました。六年生が任されたある任務を通じて、学園の“独立性”の理由が明らかになっています。
見どころ②:「6年生って6人だけ?」の真相
忍たまに登場する六年生、潮江文次郎・立花仙蔵・七松小平太・中在家長次・食満留三郎・善宝寺伊作の6人は、シリーズ屈指の人気キャラクターです。
しかし、ファンの間ではかねてより、こんな疑問がささやかれてきました。
「六年生って本当に6人しかいないの?」
TVシリーズや映画では、この6人が中心に描かれるため、ほかに同学年の生徒がいるかどうかは謎のままでした。
その答えが、小説版によって自然なかたちで語られています。決して大きく取り上げられるわけではありませんが、日々彼らを見守ってきたファンであれば、「そういうことだったのね」と納得してしまうはず。
見どころ③:天鬼はどう生まれたのか? 描かれる過去
7月22日に発売の”完全版”では、新エピソード「軍師の帰還の段」を追加し、映画本編で語られなかった“天鬼誕生までの部分”が描かれるとのこと。
姿をくらませた土井半助が、いかにドクタケの軍師となり、忍術学園と対立することになったのか。劇場版にはなかった一幕が楽しめるはずです。
かつて夢中だった方も…いろんな人に見てほしい
『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』という作品は、日常と非日常、先生と生徒の絆、戦国という時代背景を重ねあわせながら、多くの観客に強い印象を残しました。
今回の“完全版”は、そんな物語に対して、ひとつの「答え」を与えてくれる存在。
現在進行形で『忍たま』を追いかけているファンにも、かつて夢中になっていた世代にも──小説を通して、あらためて『忍たま』の世界へ足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。
(文=奈良春花)