【インタビュー】「マーケティングは行わない」サンエックスが創業94年目に描く「ユニバース」構想とは

デザイナーの自由発想から生まれるキャラクターたち

――自由な発想で生み出されているわけですね。たとえば、デザイナーひとりにつき「何キャラクター考える」といった決まりはあるのでしょうか。

場合によりさまざまです。コンペのタイミングに合わせてキャラクターを提案してもらいますが、仲間がたくさんいるキャラクターを出す人もいれば、ひとつのキャラクターに絞る人もいますね。最近あった流れとしては、コンペを通過した4~6体ほどのキャラクターを、まずはテスト販売としてシールやメモ帳、ぬいぐるみなどの商品に展開し、そこで反響を見ます。最近では「いしよわちゃん」が、このパターンで誕生しました。

――いまデビューしているキャラクターは、すべてそのプロセスを経ているのでしょうか。

たとえば「すみっコぐらし」は、テスト販売を行わなかった珍しいケースです。社内でも評価は半々で、「少し暗すぎるのでは」という意見もあれば、「可愛いからいけるだろう」という声もありました。

――それでも通ってデビューしたわけですね。「すみっコぐらし」は2012年9月のデビューですが、気づけば日常の中にいる存在になっています。最初から現在のような人気だったのでしょうか。

デビュー当初から一定の支持はありましたが、大きな転機となったのは2019年ですね。『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』が公開され、「日本キャラクター大賞2019」も受賞し、一気に広がっていきました。

――そうだったんですね。映画以前から大人気の印象がありました。

弊社の感覚としては、映画を通して「すみっコぐらし」が全国的に広がり、多くの大人の方にも強く届いたと感じています。お子さんと一緒に観に行った親御さんが、キャラクターの背景や世界観の深さに共感して、ファンになってくださった人も多いです。

――知れば知るほど惹かれていく感覚はよく分かります。

一般的に人気キャラクターというと、アイドル性があったり、格好良くて頼りになる存在だったりすることも多いですよね。一方で、サンエックスのキャラクターは、ありのままの自分を肯定してくれるような仲間だったり、そばにいるだけで安心したりするような存在が多いと思っています。実は無表情なキャラクターも多いんです。

――たしかに、満面の笑みで大笑いしているイメージはあまりないかもしれません。

うれしいときも、かなしいときも、無表情だからこそ自分の感情をそのまま投影しやすい存在なのだと思っています。「頑張って!」と背中を押すというより、そっと見守ってくれて、心の拠り所になってくれる。その距離感こそが、長く愛されている理由なのではないかと思います。

「『にゃんぷく』が好きで10年以上LINEスタンプを使い続けています」
「ありがとうございます。キャラクターに愛着を持ってくれている声を直接いただけるのは本当にうれしいです」

商品展開とキャラクターの成長

――キャラクターがデビューし、商品展開を行う際に心がけていることは?

サンエックスは、もともと文具メーカーとしてスタートしました。初の自社キャラクターは、1979年に登場した「ロンピッシュクラウン」。当時は、便せんや缶ペンケースなどの文房具にキャラクターイラストをあしらって販売していました。その流れが大きく変わったのが、1998年に登場しブームとなった「たれぱんだ」ですね。ITの急速な普及という時代背景もあり、疲れた大人たちの心に刺さり、「癒やしキャラ」ということばが生まれた時期でもあります。

当時社会現象となった「たれぱんだ」

――たしかに「癒やしブーム」がありました。

本格的にライセンス事業にも舵を切ったのは、「たれぱんだ」がきっかけです。ただ、急速に広まった一方で、落ち着くのも早かった。そこからは「キャラクターを育てていこう」という方針へと変わっていきました。

現在は「リラックマ」と「すみっコぐらし」を中心に、ほぼ毎月、新しいテーマで商品を展開しています。たとえば、コリラックマがネコになりきり、大好きなイチゴをモチーフにした「コリラックマとストロベリーキャット」というシリーズ。こうしたストーリーが積み重なることで、キャラクターそのものが育っていく感覚がありますね。あわせて、時代ごとの空気感に合わせた色使いにも変化を持たせています。

「サンエックス90周年 うちのコたちの大展覧会」公式図録より。「キイロイトリ」の制作過程

「コリラックマとストロベリーキャット」の制作過程

――流行色の取り入れ方も意識されている?

そうですね。平成の頃は、はっきりした色味を使うことが多かったのですが、いまは少しくすんだ、やわらかいトーンが好まれています。「リラックマ」が誕生して23年。登場当初から好きでいてくれる方々も大人になってきたので、大人の方にも持ちやすいシンプルなデザインや淡い配色のデザインも展開していますね。

「サンエックス90周年 うちのコたちの大展覧会」公式図録より。2003年から2011年までの「リラックマ」

こちらは2022年までの「リラックマ」。だんだんと淡い色使いになってきている

「『センチメンタルサーカス』が好きで『永遠の魔法と願いのグリモワール POP-UP SHOP』も観に行きました」
「『センチメンタルサーカス』は2025年で15周年。デザインが繊細で作り込まれていて、長年応援してくださっているファンの方も多い作品です」
※左から2番目、「コリラックマ」の右にいるのが「センチメンタルサーカス」のシャッポ

世界観を守るための大切な作業

――デザイナーについてですが、全員自社の社員で、一から育てる方針ですよね。

はい。現在まで社員のデザイナーのみで構成しています。

――新卒採用者は美大出身の方が多い印象ですが、これは条件のひとつなのでしょうか。

一般大学等でもエントリーは可能ですが、美大や美術学校出身以外で過去において採用された実績はほぼありません。デザイン学科や造形科などの専攻も問いませんし、油絵専攻の社員もいます。

――入社後すぐに活躍されている方が多いのも印象的です。

年齢や社歴で線を引くことはしていませんので、入社後すぐにデビューするキャラクターを生み出した方も多くいます。

――キャラクター制作以外では、どのような業務を担当されているのでしょうか。

グッズ、映画、イベントなど、世に出るものは基本的にすべて、デザイナーが監修しています。最近では、コラボカフェ開催時の店内装飾やイラスト配置まで関わりますね。もちろんキャラクターのことはデザイナー以外の社員も把握していますが、必ずデザイナーの監修を通します。例えば「このキャラクターたちは仲が良いから、近くに配置しないと違和感がある」といった判断も、デザイナーだからこそできる部分ですね。

――監修だけでなく、ブランディングにも関わっている?

デザイナーはキャラクターのビジュアルや世界観からの視点、商品企画担当はよりファンに喜んでもらえるモノづくりの視点など、協力しながら作り上げていく部分があります。現在は2024年7月に設立されたブランドマネジメント室が、キャラクターのブランディングを担っていますね。

――今後の「サンエックスユニバース」の展開について教えてください。

「サンエックスユニバース」初のテーマ「サンエックスタウン」が2026年3月頃にさまざまなラインナップのアイテムで発売される予定です。
また、2026年、富士急ハイランドに、サンエックスユニバースの世界観を体験できる「サンエックスエリア(仮称)」が常設されますね。「サンエックスユニバース」の世界観を表現した、「癒しとかわいさ」に満ちた空間をお届けします。

――テーマパーク内の常設エリアは、サンエックスとしても初の試みですね。

リアルにキャラクターと出会える場所があることは、とても大きいと思っています。サンエックスの世界観を、ぜひ体感してもらえたらうれしいですね。

「サンエックスエリア(仮称)」

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加藤 大樹

加藤大樹。1987年9月11日生まれ。茨城県出身。2007年、ニコニコ動画でゲーム実況グループ「ゆとり組」として活動。ゲーム実況をきっかけに出版の道へ進み、著書『プリキュアシンドローム!』(幻冬舎)などを上梓。WEBメディア「マイナビニュース」の編集者・ライター・広告制作ディレクターなどを経て、現在フリー編集・ライターとして活動。TV出演、イベントMCなどでも活躍中。