(本文/加藤大樹)
美男美女のカケちがいを描いた、漫画家・みなもと悠の新境地『私たちはカケちがっている』。本作は、高久挑と紫乃原葉月のから回る日常を、美麗な絵柄とのギャップで表現した「恋の物語」だ。
今回は『私たちはカケちがっている』第2巻発売を記念し、漫画家・みなもと悠にインタビューを実施。漫画家を志してから『明日のよいち!』の連載に至る経緯、子ども時代のゲーム体験、ラブコメとの出会い、SNSでの反響、そしてシール作りにかける情熱など、彼女の創作人生をゆっくりと紐解いてもらった。後編では、サイン入りコミックス&自作シールのプレゼント企画も予定している。
みなもと悠。12月15日生まれ。神奈川県出身。2002年に源ゆう名義で『ガンガンパワード』(スクウェア・エニックス)にて読切『フェイク』を発表し漫画家デビュー。2006年より名義をみなもと悠に変更し、TVアニメ化された『明日のよいち!』を始め、『かみさまドロップ』、『ハケンの忍者アカバネ』などを執筆。現在はWebコミック誌『チャンピオンクロス』(秋田書店)にて『私たちはカケちがっている』を連載中。突如シール集めにハマったことをきっかけに、YY-FACTORYとの共作や個人制作で自作シールも制作している/Small>
・X(旧:Twitter)
受験勉強の代わりに漫画を投稿していた高校時代
――みなもとさんが漫画家を目指すようになった経緯は?
小学校のときに絵を描く友だちがいて、その子と仲良くなるために描き始めたのがきっかけですね。その後、『モンスターメーカー』というゲームソフトのパッケージを見て、とても感銘を受けたんです。そこから「もっと絵が上手になりたい!」と思うようになりました。キャラクターデザインはイラストレーターの九月姫さんという方が担当していたんですけど、その人が漫画も描いていると知り、「この人と同じことがしたいなら、漫画家になればいいんだ」と思ったのが最初のきっかけです。
――それほど魅力的だったんですね。
はい! 中学校に入ってから、また素敵なゲームソフトに出会うんです。それが『聖剣伝説3』。キャラクターの生き生きとした表情に驚いて、「ここまで極めたいな」と思うようになりました。キャラクターイラストは結城信輝さん。なんとこの方も漫画を描いていたんです。
『聖剣伝説3』パッケージ ※スクウェア・エニックス公式サイトより引用
――同じ運命を感じたわけですね。そこから本格的に漫画家への道を目指した。
漫画に挑戦しないと後悔するんじゃないかと思いました。高校の進路を思い切って代々木アニメーション学院のマンガ科に決め、受験勉強の代わりに漫画を投稿する日々でしたね。
――当時はどこの雑誌に?
『週刊少年ジャンプ』しか読んでいなかったので、ひたすら『ジャンプ』に投稿していました。高校3年の1年間で2作送り、月例賞の最終候補まであと一歩までいきました。紙面に名前も載ったんですよ。
――1年で2作はすごいですね。1作何ページですか?
31ページですね。ノートから原稿にするまでが大変でしたけど、一度描いたらスルスル描けるようになりました。1作につき1~2ヶ月くらい。ただ、漫画の描き方が何もわかっていなかったので、ケント紙に0.3ミリのボールペンで描いていて、スクリーントーンも知らなかったので点描で全部表現していました。
――投稿した作品の内容は覚えていますか?
うーん、片方は忘れちゃったんですけど……。1作目か2作目のどちらかは「大江戸からくり守護職ホムレンジャー」という、江戸時代が舞台の変身特撮ヒーローもの。ギャグあり、バトルありの作品でした。
――『ジャンプ』王道の少年向け作品という感じですね。その経験を持ったまま代々木アニメーション学院に進学するのは大きなアドバンテージだなあ。
代アニには、出版社の編集者さんが原稿を見てくれる「添削会」があるんですよ。1年生のときに1作完成させて、『月刊少年ガンガン』の編集者さんに読んでもらったあとに名刺をいただいたんです。それを代アニの先生に伝えたら、「名刺をもらえるのは添削会で1~2名いればいい方。担当になってくれたってことだよ」と言われました。私は参加者全員がもらえる“お土産”みたいなものかと思っていました(笑)。
――とりあえず作品を読んだら名刺をくれる、みたいな認識で。
そこから一緒に作品を作っていきました。2年生のときに『ガンガンパワード』で『フェイク』という作品が佳作に入り、そのままデビューしました。
――すごい、トントン拍子に進んでいく。
とても恵まれていました。めちゃめちゃ運が良かったんだと思います。
――もちろん実力や環境もあったと思いますけど、やる気と行動力が人一倍だったということですよね。多分、学校に行っても描かない人はいるのかなと。
たくさんいました! 描かない人がいることに驚いた記憶があります。振り返ると、何も言われなくても描いていた人たちは、いまも連載して第一線で活躍しているんですよ。
――1作完成させて持ってくる熱量も大事だったんでしょうね。編集さんも「見どころあるな」って。
そうだとしたらありがたいです!
現在は『チャンピオンクロス』にて『私たちはカケちがっている』を連載中
イロハを知ってからラブコメの楽しさに目覚めた
――最初は『ジャンプ』に投稿して、『ガンガンパワード』でデビュー。ずっと少年向け志望だったんですね。
そうなんです。『ガンガンパワード』でも読み切り掲載まではいくんですけど、アンケートがあまり取れない状況が続いていて。そのとき担当さんから「女の子の絵が可愛いからラブコメを目指してみたら?」と言われたんです。でも、ラブコメを全然読んだことがなかったので、どうしようかなって。『ジャンプ』でも「桂正和先生の絵が可愛い~」くらいの認識で。
――ラブコメの土台がなかったから、どうしていいかわからない。
なので、そのときはもう卒業していたんですけど、代アニの先生のところに「エロゲを貸してください!」と言いに行きました。
――アダルト作品から学ぼうとしている……!
当時は“可愛い女の子=エロゲ”だと思っていたんですよね。そこで先生から『AIR』 や『Kanon』を貸してもらって、ボロボロ泣きながらプレイしました。「ラブコメってこういうことか」と思ったんですけど……少し勘違いしているかもしれません(笑)。
――大体の文脈は掴めてきたわけですね。
はい。初のラブコメを描くにあたって原作者さんが付いてくれて、そこでイロハを教えてもらいました。たとえば私は「なんの取り柄もない男の子がなんで女の子にモテるんだろう」と疑問に思っていたんです。でも、その先生は「そこが男の子に夢を与えるんだよ」とサラッと言ってくれて、そこから一気に吸収できるようになりました。
――自分の中の疑問を一つひとつ解決していった。
その先生との作品はコンペに落ちちゃったんですけど、学んだノウハウを活かして秋田書店さんに持ち込んで、連載につながったんですよ。
――それがアニメ化もされたヒット作『明日のよいち!』ですね。そこから大きくジャンルは変わらないイメージですね。
ラブコメの面白さを知ってから、ずっとラブコメをやりたい気持ちがあります。熱い少年漫画も描きたいと思っているんですけど……。ファンタジーでデビューしたのに、ファンタジー禁止令が出ていたくらいでした。
――たしかにみなもとさんの漫画は日常の中にファンタジーをひとつまみ、という作品が多いですよね。
秋田の初代担当さんは、私の作品を紹介するときに「ラブコメ」という単語をほぼ使わなかったんですよ。『明日のよいち!』はサムライコメディ、『ハルポリッシュ』は居合道コメディ、『かみさまドロップ』は美少女コメディ。だから、私がラブコメ以外にも描きたいものがあるのをわかってくれていたのかもしれません。
――自分の表現したいものを作品にできているということですよね。描きたいジャンルにも、良い担当さんにも巡り合えた。
ずっと恵まれています。無理やり描かされていると思ったこともないですし、担当さんと一緒に作品を作っていくのがとても楽しいですね!
『FF6』だとガウだった子供時代
――子ども時代はどういう漫画を読んで育ちました?
『月刊少年ギャグ王』で連載していた夜麻みゆき先生の『幻想大陸』が好きでした。絵柄が好きなのは大暮維人先生。大ゴマの使い方なども勉強になりましたね。雑誌では『週刊少年ジャンプ』をよく読んでいて、特にお気に入りだったのは、島袋光年先生の『世紀末リーダー伝たけし!』。『明日のよいち!』を描いていたころは、かなり影響を受けていたと思います。笑えて泣ける作品という意味では、『志村けんのだいじょうぶだぁ』の作りも参考にしていました。
――笑いと涙のギャップに惹かれるわけですね。やはり少年向け作品が多い。
『美少女戦士セーラームーン』や『きんぎょ注意報!』も読んではいたんですけど、なぜか少女漫画にはいかなかったんですよね。恋愛の楽しみ方がわからなかったのかもしれないです。
――ラブコメの“ラブ”にはいかなかった。
そうなんですよ。『ファイナルファンタジー6』が発売されたころ、クラスの女子がロック派とエドガー派で盛り上がっていたんです。「ロックはティナとセリスどっちつかずだから~」みたいに。でも私は、ガウみたいに野生で生きたいと思っていたので、まったく話が合わない(笑)。
――それは交わらないですね……。
女の子はみんな好きなので、ティナやセリスは推していたんですけどね。
『ファイナルファンタジー6』仲間キャラクターのガウ ※「スクウェア・エニックス マーケット」より引用
――男だったらガウだった。
本当に、まわりに合わせられない子どもでした。ちょっと冷笑系だったのかもしれません。
――自分の芯を持っていたんでしょうね。
かもしれません。ゲームとお絵かきさえできれば満たされる子どもでした。ゲームジャンルもファンタジーのロールプレイングが多くて、ひとりで遊べる作品が多かったですね。
――特にお気に入りのゲームは?
やっぱり『モンスターメーカー』と『聖剣伝説3』ですね。あと、ストーリーに影響を受けたのが『ライブ・ア・ライブ』。中世編のどんでん返しには鈍器で殴られたくらいの衝撃を受けて、「これが物語を作ることか」と思いました。別のシナリオの主人公たちが集まる展開も好きです。私の3大ゲームですね。そうやって物語の世界で空想して、絵に描くという自家発電していました。友だちを作るのが苦手で、外で遊ぶこともあまりなかったですね。
『ライブ・ア・ライブ』パッケージ ※スクウェア・エニックス公式サイトより引用
――友だちが欲しいと思ったことはありました?
欲しいというより、「いなきゃいけないのかな?」という思い込みがつらかったのかもしれません。でも、高校に入ってからは急に友だち作りが楽しくなって、学校もほぼ皆勤賞でした。
後編は12月11日公開予定。


