「アル中には死ぬまで酒を楽しんでほしい」残りの人生ボーナスタイム ・たろちん『膵臓爆発本』インタビュー【後編】

(本文/加藤大樹)

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●アルコールは救済だった

――お酒はいつ頃から飲み始めたの?

本格的に飲み始めたのは大学2年生(2005年)くらいかな。

――初めて会ったのが2008年だけど、もうその頃から手がぷるぷるしてたよね。

なんだったら小学校からぷるぷるしてたからね(笑)。どっちかというとタバコを吸いはじめてから手が震えるようになったのかも。今は両方やめたからなくなったけど。

――若い頃の飲み方は尋常じゃなかった。家でも外でも気絶するまで飲む。深夜に潰れたたろちんを、ネカフェに運んだり、始発の山手線に置いていったり……。

電車で6時間くらい寝て、昼過ぎに起きる、みたいなね(笑)。あの頃はそういう飲み方だった。

――なんでそこまで飲んでたんだろう?

どう説明すれば納得してもらえるのか、108個くらい解答があるんだけど。

――煩悩の数だけある(笑)。当時の仲間は、大学を辞めたりフリーターだったり、就活の面接で「ゲーム実況をしています」と言ったら面接官に馬鹿にされたりと、みんな楽しくも苦しんでいたじゃない。そんな中、たろちんもヤケ酒みたいに飲みまくって。

そうだね。基本的に“救済”として飲んでた。当時はゲーム実況とライターの仕事をしていたけど、実力もなく努力もしてない。でも偉くなりたいというワナビー的な欲求だけはある。その理想と現実の自分というギャップを埋めるために飲んでいたってのはあるかも。幼少期からそうなんだよね。中学校とかも周囲と馬が合わなくて不登校になって、余計にこじらせちゃったから。

たろちん。本名は大井正太郎。1985年10月14日生まれ。東京都出身。ゲーム実況者、ライター。2008年、ニコニコ動画で「たろちん」としてゲーム実況を開始。WEBニュースサイト「ねとらぼ」のライター・編集者を経て、現在フリー。お酒をこよなく愛する人間だったが、2022年に「重症急性膵炎」を患い膵臓の3分の2が壊死。現在は生涯禁酒の身。noteでも闘病体験やその後の生活を綴っている。
・X(旧:Twitter)
・note

――飲み始める前から「酒は救済になる」って気づいてたの? それとも飲んでからわかった?

ずっと酔っ払っている人たちが幸せそうだなと思っていた。親父が酒を飲む姿とか、『ドラえもん』の“ホンワカキャップ”でのび太たちが酔ったようになる回とか、ああいうのを見て憧れてたんだよね。初めて酒を飲んで酔いを感じたときに、「これ最高のやつだな」って。

――確信を得た(笑)。

僕、あまり悩んだときに人に相談するタイプじゃないから、酒と相性が良かったんだ。自分と対話して癒やしたい。

●残りの人生はボーナスタイム

――昔、一緒のWEBサイトで連載をしていたじゃないですか。そこでたろちんは、「名言を拾ってコラムを書く」という連載をしていたんだけど。覚えているかな、『ドラゴンクエスト5』のルラフェンにいる村人のセリフ。

あー!「うまい! うまい! 人間やっぱりうまいものを食べてるときが一番幸せだよな。まっあとの人生はオマケみたいなもんだよ」ってやつね。昼と夜でセリフが変わって、夜だと「フロあがりのいっぱいがサイコー」って言うんだよ。

――あの生き方が実にたろちんっぽいなとずっと思っている。なんか刹那的で。

酔っ払ったことで一時的に苦しみがなくなって、幸せだって感じられるなら、それは尊いものだなって思っているからね。……それで死ぬまでいくつもりだったんだけど、死なないっていうパターンは想定していなかった(笑)。

――みんなそう思っていた(笑)。

調整して75歳くらいで逝くつもりだったんだけど、綺麗に爆発しちゃったんだよなあ。そこだけ予定外。こんな早いとはなあ。

――若かったから体力があって生き残れたってことよね。

そうなのよ。自己回復力がすべての病気だから、もし40代で発症していたら、そのまま死んでたって言われた。30代で「重症急性膵炎」なんてなるやつはほとんどいないらしい。

――だいぶ伝道師だね。地方で講演とかしてほしい。「アルコールの危険性について」とか。

でもさ、「酒をやめたいです」って言われても、「やめればいいじゃん」としか言えないんだよね。僕は気合でやめたからさ。

――飲んだら死ぬレベルだったら、みんな飲まなくなるんじゃないの?

それがね、みんな飲んで再発するのよ。「急性膵炎」ってめちゃくちゃリピーターが多い。ほとぼりが冷めたころに「ちょっとくらいならいいか」って。でも、「急性膵炎」になるようなやつがちょっとで止まるわけがない(笑)。

――すごい納得したわ(笑)。でも、たろちんは気合でやめたわけだけど、その原動力がどこかにあるわけでしょう。

僕はなにかに依存しないと生きていけないから、いまは酒じゃないものに依存するようにしてる。たとえば『ストリートファイター6』のトレーニングモードで何時間も同じコンボをやり続けるとか。あれは酔っ払っているときと少し似ているんだよね。あとは、めっちゃ集中して仕事をするとか。

――酒じゃない形で快楽物質を出すようにしている。

酒プラスなにかだったら好きだったんだけどね。ライブとか旅行とか。今は「行くのめんどくせー」って思いながら、自分を変えるためにチケットを買っているよ。自動車免許を取るとかもそうだね。これまで避けてきたものに手を出すことで、生まれ変わったことをポジティブに捉えたいのかもしれない。

――生きていくために不安を取り除こうとしているという点では一緒なんだね。

もう残りの人生はおまけ、ボーナスタイムだと思っているから。終活に近いかな。昔は格好よく見られたいとか、喋りでスベったら恥ずかしいとか自意識が強かったんだけど、いまは素直になったと思う。自分をさらけ出して人に喜んでもらえたらそれでいいのかなって。

――若いころ悩みまくっていたのが嘘のよう。

あんまり目立ちたいとか売れたいとかもないね。『膵臓爆発本』も、もちろん売れたらうれしいけど、それよりも必要な人に届けたいとか、残したいという気持ちが強い。

●ライターたろちんに興味を

――『毎日酒を飲みながらゲーム実況してたら膵臓が爆発して何度も死にかけた話』。タイトルにゲーム実況を入れるのは最初から想定していたの?

これは編集部の意向とかもあって、論争もありました。だって、ゲーム実況者として売れているわけでもないし、知られているわけでもない。インターネット知名度でいうと、前職「ねとらぼ」のたろちんのほうがあるかもしれないしね。

――やっぱり「ゲーム実況」にバリューがある世の中になったんですよ。「編集者が膵臓爆発」とか「ライターが膵臓爆発」とかより。

そうなんだよね。帯を書いてくれた月ノ美兎さんも、ねとらぼの仕事で知り合って「当時ニコニコ動画を見てましたよ」と言ってくれたのがきっかけだし。マヂカルラブリー・野田クリスタルさんも当時のニコニコゲーム実況を見ていた人で、noteを読んでそれをラジオで語ってくれたって経緯があったから。こうやって広がっていくのが嬉しい。

――本を出すって、“船”を手に入れたようなものなんだよね。どこへでも行ける。

あー、船ね。いい言葉だ。「この本の著者ですが」って言えるわけね。この船でまだ生きていけるわ。

――本を出すことで、現在たろちんを知っている人たちを飛び越えていかないといけなくなるじゃないですか。届けようと思えばどこまでも届けられるわけだし。

それが難しいんだよね。たとえば、昔のニコニコ動画の人たちって、濃くて少ない人たちで輪になっていたじゃん。文脈が通じる一部の限られた精鋭たちで村社会を作っていくという。

――“身内感”が心地よかった時代。

でも今のストリーマーは違う。広くみんなにわかるようにリアクションをしたり、説明をしたりする。そうならないといけないんだよね。僕たちって、そういうセルアウトをダサいと思っていた傾向があるわけじゃない。

――いわゆる冷笑系ね。

嫌儲とか、そういうノリが残っている部分もある。

――ブログにGoogleアドセンスとかAmazonのリンクを貼るだけで炎上しますからね。

自分でも「商業に染まったなあ」と思うことはあるよ。インターネットのコンテンツなんて全部無料なのが当たり前って時代で育ったし、そういう文化へのリスペクトもあるから。でも、自分のやりたいこととか表現したいことを続けようと思ったら最低限のお金は必要。それに「お金を払ってもいいよ」と言ってくれる人がいるのであれば、意固地にならずに受け取るようにしようと思った。それは病気があって吹っ切れた部分だね。

――「推しは推せるときに推せ」というやつね。特にたろちんが言うと説得力あるなあ。そういうファンの人たちを大切にしつつ、ゲーム実況者・ストリーマーたろちんを知らない人にも本が届いてくれるとうれしいですね。

そう! 特に普段本を読まない人に届いてほしい。「ストリーマーたろちんとか知らんけど、こいつの文章読みやすいな」とか、ライターたろちんに興味を持ってくれるといいな。

――そこは別なんだ。

仕事と完全趣味くらい違うね。だから真剣に作りました(笑)。退屈しないで読める文章になっていればいいな。あと膵臓爆発人(すいぞうばくはつんちゅ)としては、アル中に届いてほしい。僕を反面教師にして、アル中の人が末永く、死ぬまで酒を楽しんでほしいと思っています。この本を見せて「こうなるからお酒やめなさい」と言われるかもしれないけど、僕の思いとしては、多くの人が末永くお酒に救われてほしい。あとはたくさん本を買ってください。ハッシュタグ「#膵臓爆発本」で感想を寄せてくれたら、全部見ます!


『毎日酒を飲みながらゲーム実況してたら膵臓が爆発して何度も死にかけた話』
価格:1,980円(税込)。

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■応募期間:2025年11月16日から2025年11月30日まで
■内容:『毎日酒を飲みながらゲーム実況してたら膵臓が爆発して何度も死にかけた話』1冊(たろちんサイン入り)
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