酒の飲み過ぎで「重症急性膵炎」発症、ICUから「三途の川メンエス」へ – ゲーム実況者・たろちん『膵臓爆発本』インタビュー【前編】

(本文/加藤大樹)

2008年より活動しているゲーム実況者・たろちん。アルコールを摂取しながらの実況プレイや軽快なトーク、朗らかな人柄で、古参ゲーム実況界では知らない人がいないほどの存在だ。そんな彼の身に異変が起きた。

2022年10月、「重症急性膵炎」を発症。さらに数々の合併症を併発し、文字通り生死の境をさまよった。奇跡的ともいえる確率を乗り越えたろちんは2025年10月、自身の闘病生活をつづったエッセイ『毎日酒を飲みながらゲーム実況してたら膵臓が爆発して何度も死にかけた話』(略称『膵臓爆発本』)を出版。本書は編集者・ライターとしての顔も持つ彼ならではのコミカルな筆致で描かれた入院・闘病記となった。

「推しタイムズ」では、同書の著者・たろちんにインタビューを敢行。約20年来の付き合いとなるインタビュアーとの、気心知れた対話をお届けする。また、記事の後編では、たろちんのサイン入り『膵臓爆発本』プレゼントキャンペーンも実施。

たろちん。本名は大井正太郎。1985年10月14日生まれ。ゲーム実況者、ライター。2008年、ニコニコ動画で「たろちん」としてゲーム実況を開始。WEBニュースサイト「ねとらぼ」のライター・編集者を経て、現在フリー。お酒をこよなく愛する人間だったが、2022年に「重症急性膵炎」を患い膵臓の3分の2が壊死。現在は生涯禁酒の身。noteでも闘病体験やその後の生活を綴っている。
・X(旧:Twitter)
・note

●膵臓爆発からのコンボ

――いつ爆発したんだっけ。

2022年の10月。そこからずっと入院生活で、退院したのは2023年3月かな。退院後に記録としてなにか残しておきたいと思って、noteを書き始めたのよ。当時は休職中で、家でもリハビリをしていたから歩き回ることもできなくて、覚えているうちに残しておきたかった。

――『膵臓爆発本』の出版話はいつ頃から?

退院から1年後くらい。noteを読んだ「QuickJapan」編集長の田島太陽さんから「うちで本にしない?」って連絡がきて。

――編集長の太陽にいやんから。

そうそう。僕たちは昔、太陽にいやんと一緒に連載してて、少し上の先輩とか同期みたいな感じだったじゃない? だから、編集長と聞いて「経た」なあと思った。僕としては本を出すのは夢だったし、世の中の役に立てばいいなと思ったんだよね。「急性膵炎」の話はネットにいっぱいあるけど、「重症急性膵炎」ってあんまりないんだよ。だから病気について広めることで社会的意義も感じられるし。

――入院中の生活は『膵臓爆発本』にも書かれているけど、あらためてたろちんが患った「重症急性膵炎」について説明してもらえると。

膵臓で作られる消化酵素が、膵臓そのものを溶かしてしまうのが膵炎。これはアルコールを飲みすぎるのが原因のひとつ。重症化すると、膵臓を溶かすだけでなく体のあっちこっちを炎症させて、ほかの臓器もダメにしちゃう。いわゆる多臓器不全ってやつ。もうね、お医者さんからレントゲンを見せられるのよ。胸や足の付け根のレントゲンを見せられて、「この白い影、全部膿ですよ」って。もう全身に飛び散っちゃっている。

――本当に爆発している。

そう! だから爆発というのが正しいなと思って、今回の本も『膵臓爆発』というネーミングにしたんです。

――それ以外にないネーミングだ。膵臓が爆発しただけではなく、様々な合併症を引き起こしてしまうわけね。

僕の場合は腎臓や肺、腸が終わった。腎臓が機能していないからおしっこがちゃんと出ないわけ。体から水分が抜けなくなってマシュマロみたいにブクブク膨れちゃう。肺にも水が溜まるから呼吸が出来なくて喉から直接呼吸器を刺してた。腸もダメになっちゃったからうんちも出ないし、下痢もしまくるという。

――もう全身がしんどい状態になっちゃう。

だから集中治療室で管まみれになって寝ていることしかできないの。でも、治療が進んできたなと思ったら今度は薬の影響で脳出血になっちゃって。血をサラサラにする薬を飲むんだけど、そのせいで血管が破けやすくなる。もう、コンボがどんどんつながっていくんだよね※。

――「重症急性膵炎」というドライブラッシュから始まり。

そこから中段入れられて、ゲージも使い切ってるから、あとはもうインパクト食らったら終わりという状態。

※(彼らがプレイしているゲーム『ストリートファイター6』の用語。とんでもなく危険という意味)

――この話が恐ろしいのは、退院してもまだ終わりじゃないってところだよね。

退院したあとに糖尿病になったからね。人間の体って、食事をしたら血糖値が上がるんだけど、その血糖値を下げるインスリンというホルモンが体内から分泌される。でも、インスリンを作っているのが膵臓なんだよ。

――あー……。

もう膵臓は2/3くらいダメになっちゃってるから、普通にご飯食べても血糖値がパーンと上がっちゃう。それが膵性糖尿病。

――糖尿病患者の方は自分でインスリン注射をするというのは聞くけど。

入院中はしてたけど、まだ注射はギリギリしていないんだよね。あとは無精子症にもなっちゃった。

――それも合併症のひとつ?

確定してるわけじゃないんだけど、ほぼそうだろうなって感じ。金玉を切り開いて中身を見てもらったら、精巣が焼けただれていて、後天的に精子が作れない状態になっていると言われた。

●あの世からの声

――ここまで話を聞いただけで、「重症急性膵炎」がいかに恐ろしい病気かが伝わってくるね。

でもね、「急性膵炎」の方は割と酒飲みあるあるみたいなんだよ。最初に病院行ったときも、2~4週間くらいの入院だと思って普通の病棟にいたから。でも、3日間「ウワー!」ってうめき続けているから、医者も「これ流石におかしいぞ」と転院してICUにぶち込まれた。そこから意識がなくなって、幻覚しか見えなくなった。

――それは薬で無理やり落ち着かせたってこと?

強い鎮静剤とかの薬をめっちゃ打たれたのよ。それで大人しく寝られるようになった。せん妄とかはないんだけど、自分の中ではいろいろな世界が見えていた。

――三途の川メンズエステこと「三途エステ」ね。

そうそう。池袋の街を歩き回って、メンズエステに行ってご奉仕を受けている感覚がはっきりある。で、股間を洗ってもらっているんだけど、なんか気持ちよくないな~って(笑)。

――入院中にお風呂に入れてないからそういう夢を見たんだろうね。

そこから、「本当にこれ死ぬかもしれんぞ」って状態になって、家族が病院に呼ばれるんだよ。自分の中では病院の待合室みたいなところで、奥さんとか母ちゃんが声をかけてくれた意識があって、それに返事をした記憶はある。でも、あとから聞いたら「起きてなかったよ。ずっとたろちんの寝顔をみんなで見てたよ」って言われた。

――声は届いてたってことだよね。

マジでそうなんだと思う。三途の川で向こう岸から声をかけられて戻ってきたなんて話があるけど、あれも死ぬ間際の幻覚とかなんだろうね。意識がない人に「声をかけてあげてください」って言うけど、あれは本当だね。患者には届いているんだよ。……ということをあの世からの声としてお届けしたい。

――三途の川を見てきた側の意見です。

意外と現世とつながっていますよ。

●リスクを抱えながら幸せに向かう覚悟

――退院してから生活もだいぶ変わったと思うけども。

すべてが変わったね。酒を飲むことが人生の背骨だったから。能動的に酒を飲むことで、すべてを成り立たせていたから、僕という人間が根幹から変わった。

――人生イコール酒みたいな生き方だったからね。

哲学的な話になるけど、「人間はなぜ生きるのか?」を考えたら、自分で見つけるしかないじゃない。幸福を感じる機能は自分の脳が作り出すから、酒を飲めばそれだけで幸せになれるのよ。贅沢をしたいわけでもないし、お酒を飲んで好きな映画を観て、ゲームをして、誰かと穏やかに笑えればそれでいいなと思っていた。それで体を悪くして死んでも幸せだろうなと。

――納得もするし、覚悟もある。

死んでもなにも後悔はなかった。でも、当時は結婚したばかりだったから、妻に迷惑をかけてしまうことだけは未練があったんだろうね。だから生き残ったんだと思う。

――生き残ったけど、強制的に変化を受け入れなきゃいけない状況になった。

酒さえ飲めば自分1人で完結できると思っていたんだよね。だってコップに注いで飲むだけで幸せになれるんだから。でも、それができないから新しい生き方をするしかなくなった。1年2年かけて本を書くとか大変だけど、いろいろな人が手伝ってくれて、いろいろな人が買ってくれて、ありがたいなあ、幸せだなあと思うよ。ただ、それって幸福を他者に依存することでもあると思っていて、人とつながりが増えると、傷ついたり苦しんだりするリスクも抱えることになる。それでも、そうやって幸せに向かっていくしかないという覚悟をした感じだね。

――2009年とか2010年あたり、僕たちが若かったころは、「何者にもなれない若者」みたいによく言われてたじゃない。その中でもたろちんは、「何者かになりたい」タイプだった。文章でも自分を表現したいとか。いまは結果と過程が逆転して、失ったからこそ手に入れたんだなって思うよ。『膵臓爆発本』は、使命を伝える側になった、たろちんの成長物語なんだなって。

本当にそのとおり。役に立ちたいという気持ちが強いんだよ、せっかく生き残ったんだから。

後編は11月16日(日)公開予定


『毎日酒を飲みながらゲーム実況してたら膵臓が爆発して何度も死にかけた話』
価格:1,980円(税込)。